移乗介助「前」の注意ポイント
ここからは、実際の移乗の介助を想定して、移乗介助の「前」と「介助中」に注意するポイントをご紹介していきます。
🌟「移乗の前」の注意ポイント
移乗介助の前には、介助者が介助しやすい環境設定やご高齢者が移乗しやすいように環境設定をしていきます。こちらは移乗介助を行う前の必須項目ですので必ずチェックしておきましょう!
- 座面が滑らないか?
まず注意するポイントとしては車椅子やベッドなどの座面が滑りやすくないか確認します。車椅子の場合は座布団の影響で浅く座ろうとした特に滑り落ちてしまったり、ベッドの場合はシーツやマットレスが滑りやすくなっている場合があるため注意しておきましょう。 - ベッドと車椅子の角度が約30度になっているか?
ベッドに対して車椅子を約30度斜めにセッティングするとベッドと車椅子の隙間が少なくなります。隙間を少なくすると方向転換も楽に行えます。 - 健側(麻痺がない側)に車椅子を設置しているか?
片麻痺や片足の免荷(体重を乗せれない)がある場合は、車いすを健側(麻痺がない側)に設置しましょう。脊椎疾患や全介助の方は別の設置位置にすることもあります。 - ベッドと車椅子の高さが水平になっているか?
スムーズな移乗を可能にするためには、ベッドと車椅子が平行になっていることを確認しましょう。場合によっては敢えてベッドを高く設定して立ち上がりやすくする場合もあります。(前傾姿勢姿勢になると立ち上がりやすいため) - 車椅子のブレーキがかかっているか?(意外と忘れがちなので注意!!)
安全に移乗するためには車椅子のブレーキをしっかりと締め、車椅子を支持しても動かないか確認しましょう。場合によっては、車椅子の空気圧を高くしたりブレーキを硬くする必要があります。(体重が重い方や男性の方など) - 車椅子のフットレストが上がっているか?
つい忘れてしまうことの1つに車椅子のフットレストがあります。足を乗せるフットレストを下げたままにしてしまうと立ち上がる時に車椅子ごと前方に倒れてしまうなどの事故を引き起こします。また足をぶつけて皮膚剥離を起こしてしまうこともあります。必ず確認しておきましょう。 - 足の位置を手前に引いているか?
移乗を行う前には、立ち上がりがしやすくなるように高齢者の足の位置を確認しましょう。足を手前に引いてもらうことでお辞儀がしやすくなり、つま先に重心がかけやすくなります。このお辞儀がスムーズにできるとお尻が軽々と持ち上がります。 - かかとを移乗する方向に向けているか?
さらに移乗介助をスムーズに行うためには、高齢者のかかとの位置を移乗する方向に向けておくと良いでしょう。足の位置を調整しておくだけでも簡単に方向転換をすることができます。(足が絡まり転倒に繋がらないように)
🌟移乗介助「中」の注意ポイント
移乗介助をする場合は、大きく「立ち上がり」「方向転換」「着座」の3つの動作に分けて考えていきます。
- ご高齢者の脇の下と腰を握ることができているか?
ズボンを持つと力で引っ張り上げようとしてしまったり、下着が食い込んで不快感を感じてしまいます。介助者は脇の下や腰を持つようにしましょう。(服を引っ張るのは基本NG!) - 介助者とご高齢者の身体をできるかぎり近づけているか?
双方の間に空間が開くと引っ張る力が優先的に働きます。重心位置を近づけることで大きな力が働くため、少しの力で介助ができるようになります。 - しっかりとお辞儀ができているか?
立ち上がる時はお辞儀をするように頭を下げることで、重心が前方に移動するためお尻が上がりやすくなります。立ち上がることが難しい方は、このお辞儀をした姿勢のまま方向転換をするのも良いでしょう。 - 頭をできるだけ前方に出しているか?
立ち上がる時は、お辞儀をするのと同時に頭の位置を前方に突き出すようにすることで、よりお尻が持ち上がりやすくなります。「おでこを前に突き出して」などと声かけするのも良いでしょう。 - 足踏みができているか?
方向転換する時はご高齢者の無理のない程度に足を動かしてもらいます。本人のペースに合わせて足踏みを行うようにしましょう。 - 片足を軸にしているか?
方向転換に介助が必要な方は、片足(健側)を軸足にして滑らすように方向転換すると良いでしょう。また事前にかかとを移乗する方向に向けておくと身体をひねらずに方向転換することができます。 - アームレストやベッド柵、介助者を支持しているか?
着座の際に「ドスッ」と座ってしまうことがあります。座る前に車椅子のアームレストやベッド柵、介助者をしっかりと支持してゆっくりと座るようにしましょう。 - お辞儀ができているか?
着座も立ち上がりと同様にお辞儀をすることで少ない力で座り込むことができます。しっかりと頭を下げてから座るようにしましょう。 - 深く座り直したか?
ベッドや車椅子に座ったままにしてしまうとお尻が浅くなっていることが多く、ずり落ちの原因になります。必ず一度深く座りなおすようにしましょう。
全介助・片麻痺の移乗介助の方法をご紹介
では実際に、移乗介助を行う場合に悩むことの多い「全介助の移乗介助」と「片麻痺の移乗介助」の方法についてご紹介します。
全介助の移乗介助の場合
骨折や麻痺、筋力低下などの影響によって、立ち上がりや方向転換の移乗介助が全介助となる方は多いのではないでしょうか?
全介助の場合の移乗介助を行う場合は、力の弱い女性スタッフは転倒や転落をしないか怖いと感じることも多いでしょう。そこでオススメなのが「スライディングボード」です。スライディングボードとは、ベッド・車椅子・ポータブルトイレなどの移乗を座ったままで横にスライドするように移乗介助を行う用具です。
全介助者の移乗介助にてスライディングボードを使用する場合は、車椅子とベッドが水平になるように高さを調整します。また、車椅子の肘掛け(アームレスト)が上がるモジュール型車椅子やリクライニング車椅子などに変更する必要があります。使い慣れるまでスラウディングボードのセッティングに時間がかかってしまいますが、慣れると力が入らずに移乗の介助をスムーズにしてくれますよ。
- 車椅子の位置はベッドの真横に固定する
- 車椅子の肘掛け(アームレスト)を上げる
- ベッドと車椅子のお尻の高さを水平に設定する
- スライディングボードをベッドと車椅子の間にセッディングする
- ご高齢者はお辞儀をして軽くお尻を上げる
- 介助者は両脇またはお尻を支え、横にスライドさせるように移乗する
<Bタイプ> 独自のブーメラン形状によりベッド側・車いす側ともに設置面積が広く取れ、硬めの素材なので、ベッドと車いすの間隔が広い場合の移乗に最適です。 <Sタイプ> 一般的な長方形型です。柔らかめの素材で抜き差しがしやすく、ベッドと車いすの間隔が狭い場合の移乗に最適です。 |
参照:株式会社モルテン 「スライディングボード」平成29年8月10日アクセス
片麻痺の移乗介助の場合
片麻痺の移乗介助も悩むことが多いのではないでしょうか?
脳梗塞や脳出血などの後遺症で左右どちらかの半身に麻痺(片麻痺)がある場合に、どのように対応すればよいのでしょうか?ここでは、右半身に麻痺がある場合の移乗介助の方法をご紹介します。
- 車椅子からベッドへ移乗する場合は、麻痺がない側(左側)に車椅子を置きます。この時できれば、15~30度の角度を保つようにしましょう。
- 介助者は、麻痺側(右側)に立ちます。(倒れても支えられるように)
- お尻を少し前にずらし、車いすに浅めに腰かけてもらいます。
- 足の位置を麻痺がない足(左足)を手前に設置し、麻痺足(右足)を前に出します。
- 介助者は、おへそとおへそを合わせるように身体を近づけ、膝を曲げて重心を低くします。
- 麻痺がない手(左手)で介助者の肩を握ってもらうようにします。
- タイミングを合わせて立ち上がります。
- 立ち上がりの際は、上半身を前屈させるように前方に傾けます。
- 麻痺がない足(左足)を軸にして方向転換をします。
- お辞儀をするようにゆっくりと座ります。
その他にも片麻痺の移乗介助のポイントとして、移乗用の手すりとして、ベッド柵を「L字手すり(L字バー)」に変更したり、ベッドサイドに「タッチアップ」と呼ばれる福祉用具を設置するのもオススメです。
参照:けあ太郎「パラマウントベッド専用 スイングアーム介助バー」(平成29年8月19日アクセス)
移乗介助に便利な福祉用具について知っておこう!
ここからは、移乗介助の豆知識として知っておくと便利な福祉用具について、ご紹介していきます。
介助用ベルト
移乗介助を行う際に、握ったり持ったりする場所がなくて困ることはありませんか?仕方なくズボンを持って移乗介助するとズボンが食い込んで痛いと言われるし、どうしたらいいのかと思うこともあるのではないでしょうか?
そこでご紹介するのが移乗介助をサポートする「介助用ベルト」です。
介助用ベルトは、対象者の腰にベルトを装着することで、介助者が抱きかかえて持ち上げるような介助を行う場合に、持ち手(グリップ)が付いているのでグリップを握って移乗介助をすることができます。
参照:株式会社幸和製作所「テイコブ移乗用介助ベルト AB31」(平成29年8月22日アクセス)
リフト
続いて、使う機会は少ないと思いますが移乗介助用の福祉用具としてご紹介するのが「リフト」です。
リフトは、ハンモックのようなシートで全身を包み込み、専用の機械で吊り上げるように移乗します。リフトには「据置式リフト」や「床走行式リフト」「固定式リフト」などがありますが、一般家庭には、「床走行式リフト」が導入されることが多いようです。
移乗の介助をする方が体重が重かったり、全介助で女性では介助できない場合に使用することをオススメします。
▶︎ 据置式リフト 2本の支柱で移動レールを支えるタイプのリフトです。意外にもフレームを組み立てるだけで設置でき、和室での使用も可能となっています。デメリットとしてレールに沿ってしか移動できないことがあります。 ▶︎ 床走行式リフト リフトの中でもキャスターが付いているので本体自体が移動するタイプです。移乗時の吊り上げは電動です。折りたたみ式のリフトもあるので収納にも便利です。デメリットとして和室などの部屋では畳を痛めてしまったり移動しにくいことがあります。 ▶︎ 固定式リフト ベッドとリフトを固定したリフトです。移乗時の吊り上げは電動で方向転換は手動で行います。リフトの中でも一番場所を取らず、狭い部屋でも比較的簡単に導入できます。 |
移乗介助用の福祉用具は、介助者にも優しく、腰痛や膝の負担を軽減してくれます。主たる介助者がご高齢の場合など老老介護の場合、介助をサポートしてくれるのでご自宅で介助を行うご家族のために導入することもオススメです。
参照:福祉ネットあおもり 青森県社会福祉協議会ウェブサイト 「第1回 移乗のためのリフト」(平成29年8月22日アクセス)
スライディングシート
次にご紹介する移乗介助用の福祉用具は「スライディングシート」です。
スライディングシートは、床に滑りやすいシートを活用することで滑らせるような移動・移乗の介助をすることができるので、介護する側・される側の身体に負担を少なくすることができる福祉用具です。
特にベッド上で寝る位置がずれてしまった時には、スライディングシートを使用すると便利です。シートがナイロン製ですべりやすい素材でできていますので、女性の介助スタッフでも重たい方を持ち上げなくても滑れせるように移動・移乗することで簡単に位置を修正することができます。
- 重たい方でも移動・移乗がスムーズにできる
- 弱い力で解除できる
- 床ずれが予防できる
- 洗濯ができるので衛生面も良好
- 身長や用途によってサイズが変更できる
僕は施設の時には、バスタオルや毛布などを使用していました。自宅でもスライディングシートが無くとも代用として使用できますよ!!
まとめ
移乗介助の手順や注意するポイントがわからないまま介助をしていると、介助される側の不安や痛みを伴うだけでなく、介助する側にも腰や膝に負担を与えてしまいます。
一般的な正しい移乗介助の手順を覚えたら、移乗介助用の福祉用具も試してみてください。福祉用具は介助される側にも、介助者にも優しく移乗をサポートしてくれますよ。
老老介護をされているご家族に導入を進めることも良いでしょう。
私たちスタッフが、正しい移乗介助の知識をつけ、そのご家族にもポイントを教えれるように日々成長していきましょう!
参考:https://rehab.cloud/mag/2830/
- 監修/原島 涼
- 2020年介護初任者研修取得。介護付き有料老人ホームにて勤務した後にリハビリ型デイサービスのレコードブック事業へ転職。介護の経験を活かした予防メニューがお客様の間でも話題のトレーナー。体のサポートのみならず心のサポートも強みの若手トレーナー。